SKY SOUND
時冬華音の日常をくだらなく語ったブログ。 オエビイラストを更新しつつ、大好きなアニメや漫画やゲームなどについて熱く語っております。他に妄想爆裂(汗)創作なんかも随時更新してたり…。 同士切実募集中!(笑)創作はカテゴリーからジャンルを選んでお読み下さい
オリジナル連載創作
【罪ドール】 天才と言われた少年がいた
彼は犯してはいけない罪を犯してそれを成功させた
おまえは僕を裏切らない…裏切れないんだ
それは彼の大切な罪ドール…
01 『第01話』 人形視点 (2006.09.02)
02 『第02話』 主人視点 (2006.09.12)
03 『第03話』 人形視点 (2006.09.16)
04 『第04話』 主人視点 (2006.09.24)
05 『第05話』 人形視点 (2006.10.16)
06 『第06話』 主人視点 (2006.11.08)
07 『第07話』 人形視点 (2006.11.14)
08 『第08話』 主人視点 (2007.01.21)
09 『第09話』 人形視点 (2007.02.25)
10 『第10話』 主人視点 (2007.07.19)
11 『第11話』 人形視点 (2007.07.22)
12 『第12話』 主人視点 (2007.08.26)
13 『第13話』 人形視点 (2007.09.02)
14 『第14話』 主人視点 (2007.09.09)
15 『第15話』 主人視点 (2007.09.12)
16 『第16話』 人形視点 (2007.09.19)
17 『第17話』 主人視点 (2007.09.24)
18 『第18話』 人形視点 (2007.12.09)
19 『第19話』 主人視点 (2008.04.26)
20 『第20話』 人形視点 (2008.06.14)
罪ドール

【第20話】
…もう後戻りなど出来る筈もない。
いつもと変わらない朝…になる筈だったがその訪問者は突然に現れた。
「よっ!」
マスターの客人を不快な気持ちにさせて迎えるわけにはいかず
私はいつも通りに笑みを浮かべて呼び鈴を鳴らした訪問者を迎え入れるために扉を開いた。
しかしその表情が凍りつくのと開いたドアを閉めたのはほぼ同時だった。
「わー!待て待て!せっかく来たのにそんなにつれない態度はないだろ!?」
「こちらとて来客は選ばせて頂いております。ご了承下さいませ」
どんどんと無造作に叩かれるドアを背に再び鍵を落とす。
セラム…この間マスターがハッキリと敵だと仰った相手を安々とこの屋敷に踏み入れさせる事など私に到底出来るはずも無い。
耳障りな扉を叩く音を聞かないフリをして階段を上ろうとする私の足を止めるようにセラムの声が響いた。
「オマエは大事な主人を守りたくないのか?」
今までの声色とは明らかに変わったトーンの口調に思わず私の体は玄関の扉へと引き戻される。
「何を仰ってるんですか?私は私の出来うる限りの事でマスターをお守りしているつもりですよ」
「それはあくまでもつもりだろ?このままじゃルシアスがどうなっても知らないぜ?」
「仰っている意味がわかりません」
「俺をこのまま帰せばルシアスは堕ちるただそれだけだ。本当にそれでいいのかって聞いてんだよ!」
いきなり荒げられた声に私の決心が軽く鈍る。
もしも彼が言っていることが本当ならば…私は彼を迎え入れるべきなのだろうか??
ゆっくりと扉を開こうとして伸びる右腕を私は左腕で制す。
マスターが聞けば彼をこの屋敷に入れること事態拒まれるのだろう……
私はマスターの為に存在する人形…マスターをお守りする為の人形…。
瞼をゆっくりと落とすと私は意を決したように扉を開いた。
「さすがルシアスが造った人形だな…よくやった」
彼は勝ち誇ったような笑みを浮かべてみせる。その笑みに私は大きく深い溜息をついた。
あぁ…マスターが怒り狂う姿が目の前に浮かび上がりそうです。
とはいえ招き入れてしまった以上どんなにマスターが怒り狂われようと彼は客人。
仕方なく私は彼をマスターの私室に案内しようとした時だ。
そこには驚いたように目を見開き仁王立ちになっているマスターの姿が視線に飛びこんだ。
「おい!なんでその男を屋敷にあげてるんだ!説明しろ!シレイ」
「…ルシアス様。これは」
慌ててたじろぐ私の横でセラムは堂々とした風だった。
「あぁ…俺が脅したんだよ。入れてくれなかったら扉蹴破っておまえを破壊してでも入るぞーってな?」
「相変わらずふざけた奴だな。シレイの弱みに付け込みやがって」
「お怒りはごもっとも!それでもおまえに言わなきゃいけないことがあったんでね」
「どうせくだらんことだろう?この屋敷にオマエが欲しがるような研究資料はもうないぞ」
「そんなもんいらねーって」
二人の会話に私が入る余地などない。
ただ…なんとなくわかったのはセラムという男がそれほど悪い人間ではさそうだということ…
ふと視線を感じて振り返ればセラムは私に対して笑って見せた。それも不適な笑みだ。
まるで挑発するかのように…
「じゃあシレイは二人分の茶でもいれてくれや。本当は酒を煽りたいところだが未成年のルシアスに飲ませるわけにはいかないからな」
いきなりマスター以外の者に名を呼ばれて驚く。
そうすればマスターはセラムを睨みつけると同時にその足元へと蹴りを喰らわせていた。
その蹴りが見事脛に直撃したらしくセラムは表情を歪めて膝をつく。
冷ややかなマスターの視線がセラムと私の間を行き交うと私は小さく頷いた。
「おまえに出させる茶はない。そうだな…先日作った劇薬でも注いでやれ」
「ルシアス…冗談がキツすぎねーか?」
「僕は冗談のつもりはこれっぽっちもないが?」
マスターの言葉は私に席を外せとのお達しであることは明らかだ。
セラムがマスターにどんな話をするのか大変興味がそそられる話題ではあったがそれを私が聞く事は許されない。
深々と頭を下げると了解したことを示すように小さく笑みを作ってマスターが望む少し冷めた紅茶を注ぐためにキッチンへと足を向けた
一歩、二歩…少しずつ二人から遠のく足。
「ふんっ!おまえのくだらん話を聞いてやるんだ。有難く思え」
遠のくマスターの声を気に掛けつつもその声を背に私は命令に従う。
それが人形の役目。マスターの命令は絶対。
例えその色が白く映ろうともマスターが黒だと仰ればそれは黒になる。
至極当たり前のことだ。
私はキッチンに付けば慣れた手つきでお湯を沸かしていつもの茶葉を取り出してそれらをティーポットへと注ぐ。
ふんわりと香る甘い紅茶の香りが鼻をつく。
マスターはセラムに劇薬を注いでやれといっていたがあれは私を遠ざける為のただの冗談だった。
それがわからない程私はマスターと付き合い短いとはおもっていない。
なので棚からマスター専用のカップと客用のカップを取り出して机の上に置く。
汚れなどないか確認してナプキンで丁寧にカップを磨き上げた頃には丁度紅茶もほどよく仕上がってる筈だ。
丁寧に分けて注ぐほんのり紅色のお茶を注ぎトレーに置いてマスターの部屋へと向かって行くときにその声は響き渡った。
「っざけるな!!今更それがどうしたって?そんな事を言いに来たのか!?」
「渡さない!絶対に渡すものか!!!」
「おまえさえ…おまえさえ!あんなことをしなければ!同情なんて真っ平ごめんだ!」
セラムの声は聞こえない。
感情的になったマスターの怒鳴り声だけが屋敷の中を支配していた。
それに慌てたように私は持っていたトレーを落としてしまうとまっすぐにマスターの私室の扉を断りも無く開け放つ。
そこには立ち上がって拳を握り締めたマスターの姿を平然としたセラムの姿があった。
ふっとまた嫌な感情が胸の中で湧き上ると同時に私の目はセラムを睨みつける。
「…シレイ!?」
「何を仰ったんですか?ルシアス様に何を言った!?」
私の姿にマスターは驚いているようだったがそんなことすら考えられなかった。
自分でも抑えきれない感情が咽び上がってくる妙な感覚に私は我を忘れてセラムの胸倉を掴んでいた。
これが怒りだと初めて悟ったのかもしれない。
マスターを傷付けている人間が憎くてたまらなくて壊してやりたいとさえ思う。
「おいおい…そんな怖い顔すんなって。俺はただルシアスの人形を「黙れっ!!」
セラムのいう言葉を遮ったのはマスターの言葉。
「もうおまえの言葉なんか聴きたくない!今すぐ出て行け!!」
すっと私はセラムの胸倉を掴んでいた手の力を抜いてそれを開放してやる。
マスターの命令は絶対だ。それがこの屋敷の法律。
セラムはやれやれと溜息をつくと立ち上がって平然とした顔で足を踏み出した。
そして一度私の横で立ち止まって哀れみを含んだ瞳を見せると彼はそっと私の耳元で言葉を紡ぐ。
ーーーもう人形ごっこは終わりだ。
彼が何をいっているのかわからなかった。
それでも全身からぞっと血の気が薄れていくような…足元から今まで築いてきたものが壊れてしまいそうな
恐ろしさを感じたのは事実だ。
「…マスター大丈夫ですか?」
「…………」
マスターは応えてくれない。
「マス…「どうして…アイツを屋敷に上げた」
「えっ?」
「僕はアイツが敵だと言った。頭がいいオマエならその意味すらわかっただろう!なのにどうして!」
そう…マスターはあの時と同じように玄関での私とセラムのやり取りをみていたのだ。
私が戸惑いながらもセラムをこの屋敷に上げた姿を彼は見ていた。
「それは…」
思わず口籠る私にマスターの視線が向けられる。
今まで見たことの無いような冷たい目。
「あぁ…朗報だったよ。でも聞きたくなかったあんなもの…」
「マスター。あのっ!私は…」
私がマスターへと手を伸ばした時だった。その手は見事に弾かれてしまう。
ただ何を言えばいいのかわからずに困惑した瞳にマスターは何を悟ったのだろうか…
彼の冷たい瞳の奥に私はどう映ったのだろうか…
「うるさい!おまえなんかに…人形のおまえなんかに何がわかる!!」
放たれた言葉は刃となって私の胸元へと突き立てられる。
何を言われたのか一瞬理解が出来ずにただ立ち尽くすしか出来ない…なのに全身が震えた。
己の体でおかしなことが起こっている事は明らかで目の前の視界が霞み始めると同時に
ズキン……
それはいつも警告音のように鳴り響く頭痛。
ズキン…ズキン…ズキン!ズキン!!
何度も繰り返される。
その痛みに耐えかねて私は頭を手で覆ってその場に膝をつく。
今でもなお繰り返される頭痛は止むことなくそれは増す一方で次第に呼吸まで乱れ始める始末だ。
何がどうなっているのかがわからない。ただ苦しくて痛みはまるで全身を覆い尽くすようで…
その尋常ではない姿にマスターも驚いているようだった。
足音と共に肩に置かれる手の温もりがほんのりのその痛みを和らげてくれたようだったがそれも一瞬のこと
「シレイ!おいっ!どうしたんだ!シレイ!!」
「…る、シ……アス、様」
心配そうに声をかけてくれるマスターの言葉は届いているはずなのにその声が少しずつ薄れていく
なんとなくこれが…消えるという感覚だと思った。
マスターが少し前に死ぬといった感覚が己に近づいてきたのだと…
酷くなる痛みがもう痛すぎて感覚すらわからなくなっていく。
嫌だ…私はこれから先もずっとマスターに仕えていたい…
我儘でなのに優しくて人一倍寂しがり屋の彼が泣く姿はもう見たくない…のに。
おまえは僕を裏切らないと誓えるのか!?
信じない!おまえだって僕を裏切る!おまえも僕を利用したいだけだ。
もう…いらない!誰もいらない!!
「シレイ!!」
ズキン!!!
一際酷い頭痛に全ての感覚が消えた。
目の前に誰かがいることはなんとなくわかったが誰だかわからない
「シレイ…大丈夫か?シレイ?」
シレイ…それは誰の名前だろう?
目の前にはオレを心配そうにみる少年が顔を覗きこんできた。
何故だかうまく声がでない……まるでどこかでリセットボタンを押されてしまったようなまだ感覚が行き届かない体。
喉がちりちりと焼け付くような感覚にオレはやっとのことで喉の奥から声を絞り出す
「……おま、えは、、、誰だ………?」
薄っすらと視界がもどった目には絶望に歪んだ少年の表情が映った。
罪ドール

【第19話】
亀裂が入ってしまったモノが壊れてしまうのはあっという間の出来事だ
少しずつ大きくなる亀裂が全てを侵食して侵していくサマを…
誰が止めることが出来るだろうか?
「腕の傷もほぼ塞がっているが抜糸はもう少し待った方がよさそうだな
どうせおまえの事だからいつ無理をして傷口を開くかわからん」
シレイの腕に巻かれた包帯を解いて傷口を確認すればたっぷりと消毒液を含ませた布で傷口を拭う
染みるか時折彼は表情を歪めるものの何一つ文句は言わない。
少しぐらい泣き言を言っても僕は怒らないのにそういった所は徹底しているようだ。
消毒が終われば真新しい清潔な包帯でまた傷口を覆う。
これで腕の処置は完了だ。あとは彼が妙に気にしている頭痛のことにだけだった。
「頭痛のことを気にしてるといっていたようだがどう痛むのか詳しく教えてくれ」
「えぇ。時々痛くなる程度だったんですけどそれが最近は頻繁に起こるようになって…」
僕は椅子から立ち上がると座ったままのシレイの額に手を当てる
特に目立った外傷などはどこにもなく見ただけではその原因がなんなのか全く予想がつかない
現在の段階では触診程度のことしか出来ずに彼の頭の部分に指を這わせていくがそれでもやはり原因に行き着くことはできなかった
「組み込んだプログラムによる拒絶反応…いやそれならもっと早く起きているはずだ……」
思い当たる事をぶつぶつと口にする僕へと注がれる視線。
決して言葉にすることはないのだろうけれでも現段階で一番不安を感じているのはシレイ自身だ。
「あまりにも酷いようなら一度頭を開いてみるか?」
「えっ……?」
「……冗談だ」
驚いたように顔を持ち上げる彼に対して僕は小さく笑みを作ると彼は安堵したように息をつく
「現段階での原因を判明するのは難しそうだな。何分ここでは最低限の設備しかないし…
となればまた研究施設を借りるしかないか…あのくそじじぃ共に頭を下げるのも面倒だが仕方ないか」
「…よろしいのですか?」
「何がだ?」
「いえ…マスターは研究室がお嫌いなようなので私の為なんかにわざわざご足労をかけさせるなどとは」
こういった時に我ながらよく出来た人形を造ったと思う。
彼はいつも自分のことよりも僕のことを尊重してくれていた。
それがどこか嬉しくて心地よく思ってしまうようになったのはいつの頃からだっただろう?
だから僕も自然とその優しさに応えてやりたくなってくる…たとえ作り物だとしても…
「僕はおまえの主人だぞ?シレイの管理には責任と義務がある。当然だ」
「ありがとうござます」
多少の皮肉を交えていった言葉のつもりだったが彼には伝わらなかったようだ。
彼は満面の笑みを浮かべて見せると座ったままの状態で頭を下げる。
少々罪悪感に駆られながらも再び椅子に腰を落とした僕は机の上に置かれていたカレンダーへと手を伸ばして日付を確認した
「明日…は無理だな。明後日に行くとするか」
「はい!よろしくお願いします」
やっとこさ頭痛の苦しみから解放されることにシレイはとても嬉しそうだった。
もしかしたら彼を苦しめていたのは頭痛だけでなないのかもしれない
それを知るのは明後日になりそうだが…
罪ドール

【第18話】
何気ない一言のコトバの奥の奥…
それは確信…?それとも事実…?
私はアナタにいつまで仕える事が出来るのでしょうか
カチャリ…カチャリ…カチャリ…
冷たく響く食器のぶつかり合う音だけがしんと静まり返った室内で音を放つ。
目の前にはマスターに作って頂いた食事のミートスパゲティ…
それを多少テーブルマナーはよろしくないが、苦手な左手でフォークを握り締め、皿に顔を近づけるようにして食べていく。
味は美味しい…のだと思うのだが、何分この空気のせいかあまり味を感じない。
マスターの機嫌は最高潮に悪かった。
いつも機嫌が悪くなれば気持ちの全てを私に対して吐き出してくれたが今回はどうやら違うらしい。
彼の大嫌いなニンジンが入っていないミートスパゲティを口に方張りながら…一言も口をきいてくれないのだ。
こういったことは私としても初めてで…どうしていいのかまったくと言っていいほど対応がわからない
仕方なく同じように黙り込んで食事をすませているおかげで
…一向にこの重苦しい空気から逃げることができないのだ。
……………。
…………………。
あぁ…如何いたしましょうかこの空気。
正直に言わせて頂ければ……もう、耐えられません!限界です。
「……あの…マスター………」
この空気を打破すべく私は重苦しい空気を裂くようにして言葉を放つ。
ガチャン…それとほぼ同時にマスターが持っていたフォークとスプーンがテーブルに置かれた。
私の心臓が音を立てて跳ね上がるように感じる。
またマスターを怒らせてしまったのかと…
刺さるように感じる視線が、もとからある筈のない逃げ場を奪うかのようにこの体をその場に縫い付ける。
「あっ…申し訳あり「僕はおまえが思うほど完璧な人間じゃないからな」
「はい………?」
私の言葉を割って入ったマスターの言葉に思わず首を傾げてしまう。
「だから!僕にはシレイが必要だってことだ!!」
「はぁ……」
何がなんだかわからなくてどうも曖昧な返事しか言葉にならない。
「料理が出来るといったって最低限だし、掃除は苦手だ…寧ろ散らかす方が得意の分野と言えるだろう!
第一、一人じゃチェスも出来ないし、研究課題がなければ時間を潰すのも難しい!それにシレイの淹れる紅茶は美味いし…」
「マスター?」
一通り言葉を言い尽くせばマスターは可愛らしくも顔を真っ赤にしてそれ以上は言葉を噤んでしまった。
そこまで言われた私はやっとマスターがご機嫌を悪くされた理由に気付く。
『マスターは私がいなくても大丈夫ですね』
何気なく先程口にしてしまった言葉がどうやら彼には納得のいかなかったものらしい。
こういったことがあればまだまだ彼は子供なのだと改めて思い出してしまうようで……
つい忘れがちにになってしまうのは私の悪い癖だ。
「ご安心ください…私がいなくなるのはマスターが私を必要ないと感じた時だけです」
「……それじゃあおまえは一生、僕の傍にいる気か?」
「えぇ。マスターがそれを望んで頂けるのなら…」
そこでようやく彼は笑みを零してくれた。
呆れたような負けたような…そんな感情を込めた笑みだったがなんだかこちらが心からほっとしてしまう
「くっ、くだらないことばかり言ってないでさっさと食え!一応、おまえは怪我人なんだからな!」
「その事についてマスターに少し相談したいことがあるんですけどよろしいですか?」
「……傷口でも痛むのか?」
「いえ…そういうことではなく…」
一瞬…言おうかどうか戸惑った。
何かが胸につっかえたような感覚に違和感が溢れ出す。
今までこんな事はなかった筈なのに…そう、マスターに付き添って研究施設に行くまでは…
マスターは研究施設を嫌っているようなので極力その話題には触れたくないのが本音。
けれども…そういうわけにもいかない
「言いにくいなら後で聞いてもいいぞ?」
「…頭が痛いんです。その…研究施設から帰ってきて以来頭痛が治まらなくて」
暫くマスターは考え込むように口籠って時折私へと視線を運ぶ。
「気のせい…ではなさそうだな」
「……はい」
「わかった。あとで腕の傷とあわせて診てやるから部屋に来い」
私は素直にマスターの言葉に頷いてみせる。
頭が痛い…
それはまるでなにかを伝えるような警告音。
罪ドール

【第17話】
小さな音が響く…
それはまるでカウントダウンのようで
もう時間が無いんだと急くように誰かが言う
タイムリミットはあと少し…
「シレイ!大人しくしてろって言っただろ!!」
僕の声に彼は慌てたように棚から取り出したフライパンを落とした。
前回の一件…そう命に関わるような大怪我をしたシレイ。
暫くは設備の整った場所で入院した方がいい…といったセラムの言葉を無視して強引に僕らは住みなれたこの屋敷に帰ってきたのだ。
あんな場所に長居したい奴がいればそいつは研究がよっぽど好きな変態だけだな
僕はあの研究施設が大嫌い。
研究資料を提出したらあんな場所はさっさとオサラバだ。
こうして自宅療法の方が僕にとってもシレイにとってもいいに決まってる。
…まぁ、シレイが絶対安静との僕の言葉に従ってくれればの話なのだが…
「寝てろって言ったのに…傷口が開いたらどうする気だ?」
「いえ…そろそろマスターのお食事の時間だと思いまして…」
まったくコイツは…この期に及んで頭の中は僕の事しかないのか!
怪我した時ぐらい自分の事を考えてくれればいいのに…
僕はシレイの腕に巻かれた包帯へと視線を移す。
20針は縫う程の大きな傷口だった。
彼は何も言わないので僕も何も聞かない…
大方予想はついていたがそれを口にしないのは互いの暗黙の了解。
それを口にしてしまえば僕はシレイの厚意を裏切ることになるそんな気がした。
「自分の食事ぐらい自分で作れる。これでもシレイが居ないときは自分で作ってたんだからな」
落とされたフライパンを拾い上げるとそれを置いて久しぶりの料理というものに取り掛かる。
整った包丁にまな板…丁寧に冷蔵庫の中で種類ごとに分けられた食材。
それはまさにシレイの性格の賜物と言えるだろう。
実際の処僕はキッチンにマトモに入るもの一年ぶりぐらいだった。
まぁ…作っている間になんとなくそれっぽいことが記憶から思い出されていくだろうと…そんな軽い感覚だ。
食材も揃っているしある程度のものなら作れる筈だ
「っで…シレイは何が食べたい?」
その質問に彼はきょとんそした表情を浮かべていた。
「えっ…?」
「だからおまえのリクエストを聞いてるんだ!聞こえなかったのか?」
「いえ…マスターが料理を作られるとは…思っていなかったので…」
大概失礼な奴だ。
「怪我人に食事を作らせる訳ないし、一人分作るのも二人分作るのも一緒だからおまえの分も作ってやるって言ってるんだ」
「…はぁ」
「それとも何か?僕の食事は食べられないとでも?」
「とんでもございません!」
「それなら大人しく見物でもしてろ」
シレイを下がらせて僕は再び食材を物色し始める。
そんなにお腹も空いていないし簡単な物…トマトもあるしミートスパゲティでも作るか…
必要な食材を取り出してとりあえずはそれらを全て机の上に並べる。
丁寧に磨かれた包丁を片手に野菜を切り始めればシレイの感嘆の声が漏れた。
…確かに見物していろとはいったが、後ろから手元を覗き込むほど見ろと言った覚えははない。
「さすが手馴れてますね…」
刺されるような視線を感じつつやりにくいと思いながら刻まれていく野菜。
包丁を持つもの一年ぶりだが一度身についたものは一年程度ではなかなか忘れられないもののようだ。
「あっ!駄目ですよ!嫌いなニンジンも入れないと…」
「うっ…」
「あと!タマネギは目にしみますから気をつけてください」
「わかってるって!!」
確かに手は出してない。
見物してるだけ…口はいちいちだしてくるけど…
「シレイ!うるさっ…「私がいなくてもマスターは大丈夫ですね」
えっ………?
何を…言ってるの…?
いつもと変わらない笑顔なのに…どうして急に…そんなこと
「シレイ……」
ぽたっ…ぽたっ…水滴が零れ落ちる。
「えっ!マスター!?どうかなさいましたか!?」
僕は慌てて毀れた涙を拭う。
わからないけど…何かが不安を感じるようにして胸を締め上げるんだ。
何も変わらない筈なのに…シレイは僕の傍にいてくれるのに…
「っ馬鹿!タマネギが目にしみただけだ!うろたえるな」
…本当にそれだけなの?
時間が無い…なんの?
急いで…早く…どうして?
本当はわかってるんじゃないのか…だって…それは
「マスター?」
シレイの言葉にはっとした。
くだらない!どうかしてる!何気ない一言でこんなにも動揺するなんて僕らしくない。
「ふざけるな!僕は絶対に手放してなんかやらない!」
そうだ…彼は僕の人形。
僕が造った…僕だけに、僕の為にその身を全て捧げて仕える存在。



























