
【第10話】
そんな事誰も望みはしないんだよ。
そうだろう…?これは決まった事なのだから
これでいいんだ。理由はないけれども…
「じゃあ、出掛けて来るから留守番を頼む」
僕はいつも通りにそう行って屋敷を出ようとする。
五月蝿い研究所のくそじじぃ共からまかされた研究レポートの締め切りがもう今か今かと迫っていたからだ。
本当は行くのも嫌だが…そうは言っていられない。
これを出さないと僕は一般研究員扱いされて特に面白くもない研究を、馬鹿な奴らの下でさせられることとなる。
全く面倒なことこの上ない。
「あぁ…もうそんな時期だったんですね。いってらっしゃいませ…」
そして彼もまたいつも通りに僕を見送る。
ふと僕は足を止めた。
見送る彼の姿はいつも通り…ただ僕は思い出してしまった
彼はこの屋敷から一歩も外へと出たことがないということを…
特にわざとそうさせていた訳でもないのだが…何かとそういう機会がなかったのも事実。
必要なものは全て配達にまかせていたし、それに僕もこの件以外は外に出る事がなかった。
屋敷内は広いから不便もなかったのだから…。
うーんと小さく唸って僕は彼を見れば、不思議そうに彼も首をかしげる。
「…おまえも来るか?」
たった一言。
僕がそういっただけで彼の表情がいきなり明るくなる。
「よっ、よろしいのですか?私なんかがご一緒して…」
「嫌なら別に来なくてもいいぞ?」
「いえっ!喜んでお供させて頂きます!マスター」
身支度をする彼を横目で見ながら…というかそんな遠出でもないのに何をそんなに準備するのか…
見ていて飽きないのもこいつの面白いところ…
んっ!?待てよ…
今まで全く気にしていなかった…というよりも寧ろ当たり前のことだから気にもならなかったが
「おいっ…まさかおまえ、外でも僕のことをマスターと呼ぶつもりか?」
「はい?いきなり何を仰っているのですか?」
バランス的に考えてみよう…
15歳の僕と横に並ぶは20代前半の男。
その男が僕の事をマスターと呼ぶ。
当然は当然だ。僕がこいつを造ったのだから主人という立場になるのは必然。
それを知らずに傍から見たら常識人ならそのアンバランスさに気がつくというもの
…っていうか変に思わない奴がいればそいつのほうがおかしい!
「マスター、どうかなさいましたか?」
「マスターじゃない!僕にはルシアスという名前がある!」
…………。
そういえば…こいつに僕の名前教えてなかったっけ…?
きょとんとした人形。
「……。かしこまりました。ルシアス様」
さすが僕の造った人形らしく理解は早いようだ。
改めて僕は彼を…彼をっ…んっ?!今まで二人きりだったからこれも気にならなかったが…
こいつの名前決めてない。
いや…今まで僕はなんとこいつの事を呼んでいた?
『僕は別におまえとのチェスの勝負に…』
『おまえも馬鹿だな。』
あぁ…何なんだろう。この大変申し訳ないというか心苦しいというかよくわからん感情は…
このご時世、犬や猫のペットまで名前があるとうのにこの人間に近い姿をしたこいつに名前がないなんて…
僕は頭を抱えてこいつの名前を考えてやる。
即席でつける名前もどうかと思ったがないよりは幾分かマシだろう…
どんな名前をつけても文句も言わなさそうだしな
「…………シレイ」
「はい…?」
「おまえの名前だよ!何?文句でも言う気か?」
間抜けな返事のあとは彼はにっこりと笑って見せた。
「シレイ…シレイ…素敵な名前をありがとうございます。ルシアス様」
何度か確認でもするようにその名を口にする。
こいつの場合変な名前をつけてやっても喜びそうだよな…うん。